ぼくさぁ、全然知らなかったんだけど、
洋服つくるのって、大量の水が必要なんだって。

うん。
50mプールに3700万杯分くらいの水が
1年間で使われてるみたいだね。

本社MD部 A子

二人とも、詳しいわね。
そうなのよ、すっごく水を使うの。心が痛いわ。

各工程で水は必要なんだけど、とくに
染色の工程で出てくる排水の量が多いわね。
染色と仕上げの工程を合わせた廃水量は
世界中の廃水の約20%という調査もあるの。心が痛いわ。

そっかぁ、でもお洒落を我慢するのは悲しいわよね。
いろいろと。

本社商品開発部 A吉

その責任は、生地をつくっている俺たちにもある。

世界人口の40%以上の人たちが、飲み水にも困ってる現状だ。
それをなんとかしたくて、水を浄化する技術を開発する科学者、
原料を生み出す生産者、それから製品をつくり出す俺たち、
みんながそれぞれの得意分野でいま一生懸命取り組んでいるんだ。

そう。
とにかく、水の使用量を削減するために、私たちは
NONDYEっていう特殊な着色方法の生地を開発したのよ。

特殊?

ああ。2つの着色法がある。
まずは「原着糸げんちゃくし」っていう方法だ。

ポリエステルとか、合成繊維の糸をつくるとき、
紡糸前の原料の段階で顔料を混ぜ合わせて
あらかじめ着色された糸をつくるんだ。
糸や生地の段階で染色する必要がないから
水の使用量もエネルギーも抑えられるってわけだ。

一般的には、糸や生地を染料に漬けこんで染色するんだけど、
これだと、染色時やすすぎのときに使う水の量が多いのよ。

しかもね、原着糸は、繊維と顔料が一体化してるから、
摩擦や日光による、退色に強いのよ。これすごくない?

そうだよね。だいたい何かを我慢しないと
いけなかったりするのにね。
もう一つの方法は?

うん。もう一つは説明が難しいんだけど、「超臨界染色法」だ。

なにそのSF的なネーミング……

俺がつけたんじゃねーよ。

これはな、二酸化炭素を超臨界流体(気体のように拡散し液体のように密な状態)にして、生地に染料を入れていく方法だ。

……よ、よくわからない

これは難しいよな。
まぁ、人口的に特殊な環境を作り出した中で行われる作業なんだ。
水も染色助剤も使わない、排水処理もかなり少ない、
すげー優秀な染色法だな。

NONDYEは、ほんと優秀な生地ね。
強いて欠点を挙げるとすれば、
生地の最小ロットが大きくなることくらいかな。

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