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NATURE&CLOTH 2019.06.15
蓮の葉は、決して濡れない。
にわか雨に降られて、お気に入りの服がずぶ濡れ。水をはじくおしゃれ着があればいいのに、と恨めしく思ったことはありませんか。でも、自然界には濡れない仕組みを備えた生き物がいます。たとえば、池の中から顔を出しているというのに、決してずぶ濡れにならないハスです。
夏の早朝、水面に広がる葉の間から長い茎をすっと立ち上げ、大輪の花を咲かせるハス。水底の泥の中から育つことから「蓮は泥より出でて泥に染まらず」と称えられ、古くから神聖な花として尊ばれてきました。
そっと置かれた水晶玉のように葉の上で丸く光る水滴も、ハスの高貴さを思わせます。ハスの葉には水をはじく優れた仕組みが備わっているのです。
一般的に、植物の葉の表面にはワックス状の成分が含まれていて、水をはじく効果(撥水効果)が備わっています。ハスの葉の表面にはさらなる秘密が。拡大してみるとわかるのですが、すべすべに見える葉には100分の1ミリほどの小さな突起が無数に並び、実はデコボコしています。その一つ一つの小さい突起の表面にさらに小さい突起が無数に並んでいます。
この、人間の目では確認できないミクロの突起が無数にあることで、水滴と葉との接着面が小さくなり、また、突起の間の空気がクッションのように下から水滴を支えることになります。すると、水滴は葉の表面に留まることができずに、コロンと転がり落ちてしまいます。これが、ハスの超撥水効果です。
ハスは泥水をかぶりやすい環境に生えながら、転がった水滴がゴミや汚れを道連れに葉から滑り落ちるので、いつも清らかな姿を保っていられるというわけです。ハスにとっては、葉の気孔(気体や水分を通す微細な孔)が泥などで詰まり、光合成や呼吸が妨げられるのを防ぐ、大切な微細構造なのです。
この仕組みはハスの英名にちなんで「ロータス効果」と呼ばれ、米粒のこびりつかないしゃもじやヨーグルトのフタ、雨具、建材など、私たちの暮らしのあちこちですでに活用されているのをご存知でしょうか。
湯船に浸かりながら読める本や、泥んこ遊びをしても濡れない子供服が登場する日も近いかもしれません。
参考文献:植物科学最前線6:102(2015)「葉の表面構造と撥水性の発現機構」
いきものずかん ハス
池や沼の底で地下茎を伸ばして生長する水生植物。太った地下茎は、きんぴらや煮物でおなじみのレンコン。よくスイレンと混同されるが、ハスは水上で開花し花びらを散らした後にハチの巣状の花托を残すのに対して、スイレンの花は水面に浮かび、閉じると水中に沈む。また、スイレンの葉には撥水性がない。いちばんの違いは、スイレンの地下茎は細くて大きな穴がなく、しかも食べられない。*食材利用については、観賞用の品種や国による違いがあります。